書評

フォークナーが描くアメリカの暗部『八月の光』

耳をすましていると、その音楽の中に彼自身の過去を讃える声が聞こえるように思えるー彼自身の土地、彼自身の捕らわれた血に対する讃(ほ)め歌、すなわちそれは彼が生れて生きている土地の人々、何事をも争わずに喜びも破滅も逃避もできない人々への讃め歌な…

<自殺するほどマジでやっている>マーク・フィッシャーと鬱病

鬱病患者というものは、つねにあるひとつのことに自信をもっているものである。つまり、じぶんにはなんの幻想もない、ということに。 (わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来) マーク・フィッシャーはイギリスの若者が政治に無関心であることに…

村上春樹が描く青春との決別 『風の歌を聴け』

『風の歌を聴け』言わずと知れた村上春樹のデビュー作である。1979年の4月、この作品で群像新人文学賞を受賞し、その小説家としてのキャリアがスタートする。今やノーベル文学賞の候補に挙がるほどの作家の偉大なる一歩。 そして今この作品を読み返し、改め…

華倫変という漫画家と100日後に死ぬ光うさぎ (『高速回線は光うさぎの夢を見るか?』考察 )

苦しみってのはただ噛みしめるように なれていくしかないのかな・・・ これは『高速回線は光うさぎの夢を見るか?』という漫画の中のとあるセリフ。作中、岡山三奈という人物が述べる「唯一の本音」とされている言葉である。そしてこのセリフは28歳でこの世…